鏡と顔

鏡を、見ない。
学生のころは「毎日髪型を変えてやる!」という妙なポリシーを持っていたので、必然的にかなり鏡と向き合っていた。
それが、いつからかわからないけれど、すっかり鏡と向き合うことがなくなった。
そうして、ひさしぶりに鏡を見ると、かなり、顔が、変わって見える。
実際、毛穴が大きくなっていたり、生えていなかったところに毛が生えていたりする。
逆に、生えていたところの毛が無くなっていたりする。
たいへんかなしい気持ちになる。


音楽も、久しぶりに聴くと、ずいぶん顔が違ってみえる。
フリッパーズ・ギターの『恋とマシンガン』と、RCサクセションの『スローバラード』。
昔から知ってはいたが、さほど好きではなかった曲たち。
それが、ラジオからたまたま流れてきて、気になってしかたがなくなり、今日、CDをレンタルしてきてしまった。
改めて聴くと、まったく前と顔が違う。
『恋とマシンガン』は、なよっちぃ男子ふたりの軟弱ギターポップではなく、良質な和製フレンチポップだった。
『スローバラード』は、単なるロックな泣きのバラードではなく、古き良きメンフィスあたりの空気感を漂わせるモータウンソウルだった。
違う角度から、本当の顔が見えてきた。
という感じだった。
曲が変わったのではなく、変わったのは自分。
それは、おフレンチなシャバダバした音楽や、モータウンサウンドを経てきて、ふたたび曲と出会ったからで、自分の成長みたいなものを感じられて、とてもうれしい気持ちになった。


顔も、鏡に写る自分が変わったのではなく、見る自分が変わったからだ。
……と、いいのに。


今日は、俳優で翻訳家でディレクターでもある多才の外人さん、クリスチャン・ストームズさん取材。
「子供ができて自分が変わった」
という話に、いたく共感。
そんな自分の顔を、できれば自分で、見てみたい。
インタビューは、自分をうつす鏡だ。
音楽も、そうなのかも。
自分の心がどんな顔をしているのか、たまに確認したくなる。